「あいだ」を尊重する日本の空間
建築は空間を仕切ることから始まります。その中で内と外の境目であるの境界、空間のデザインが私たちの大きなテーマです。
建築は、連続から不連続にあたる部分が開口部であったりします。この窓や扉、門、外から内に入るスペースを仕切る場所が境界です。縁側やのれんなど空間を完全に区切らずに「あいだ」を尊重する「日本的なもの」の可能性に、世界中の建築界から熱い視線が集まっているそうです。
『境界・世界を変える日本の空間操作術』(監修:隈研吾)の中で、「近代建築とは、境界を自由にコントロールできる建築で、人と人、人と物、人と自然の関係を繊細にコントロールし、調整することのできる建築」とのことです。境界を自由にコントロールできるとはとても素晴らしいことです。
日本の独創的な文化の中心にあったのが、境界という視点で境界をたくみにデザインしつづけてきたことです。この繊細な境界に、建築家ライトの感性が注目しました。
ライトの、「プレーリー・スタイル」は、屋根の下に様々な領域を構成し、微妙な境界を生成し、様々なスクリーンを配置し、境界の名人となりました。格子や障子のやわらかな境界、地面に置かれたひとつの石ころの繊細な境界で、世界が再構成されることをライトは予感したそうです。
ライトは、広重の浮世絵の中の透明な境界の空間を発見し、シカゴ万博の日本館と同様の衝撃を与え、天心の「茶の本」から、建築の全体は生活する空間にあること学び、茶室の基本原理ともいえる空間的建築観が、彼の建築を生み出し成熟した空間を示しました。
そして彼が創始した近代建築の引き金となり、ミースの「ユニバーサル・スペース」やコルビュジェの「近代の5原則」にも影響を与えました。
日本の建築空間には、さまざまな境界の技術があります。様々なスクリーンの、ルーバー、格子、暖簾、様々な中間領域の、縁側・廊下・庇などが再注目されています。これらの建築装置は、サステナブルデザインの先例としても注目を浴びてきています。
光、風、セキュリティーも調節できます。資源もない日本で人々が高密度に暮らすことを可能にした中で、育てられてきた境界のデザインを求めています。
ブルーノ・タウトは、桂離宮の竹垣を見て涙したそうです。関係の世界を生きてきたと痛感し、「日本美の再発見」の名著を残しました。そして関係という複雑で微妙な世界へと踏み込みました。境界に対して意識的な世界のことである関係の世界。
タウトは桂離宮の竹の縁側に、日本空間の中の関係性の文化、境界の文化を発見しました。この日本建築の中の特異で魅力的な境界の手法は、内と外とのあいまいな関係を大事にしながら、私たちも建築を創り続けていきたいと思います。
縁側やのれんなどはごく普通の要素が、このように日本が極めて独創的な文化だったとあらためて気付いたとき、日本の建築の空間を境界というフィルターを通すことで別の視点から物が見れ、何か素晴らしいものを得たように思えます。